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研究の足掛かりとなる素朴な疑問を大事にして欲しい

2018年12月21日掲出

医療保健学部 理学療法学科 十島 純子 教授

十島 純子教授

 出芽酵母を用いて、細胞のはたらきについて研究している十島先生。医療保健学部では、医療人を目指す学生に欠かせない学問である「生理学」を教えておられます。今回は、先生のご担当授業や研究内容について伺いました。

■医療保健学部ではどんなことを教えているのですか?

十島 純子教授

 医療保健学部のほぼすべての学生を対象に、「生理学」という基礎医学を教えています。医療職に就く人は誰でも、体のつくりを学ぶ解剖学や、体の中で起こっている代謝を学ぶ生化学、そしてそれらを結ぶ、つまり体のどこで何が起こっているかを学ぶ生理学の知識を身につけなければなりません。このため、これらの科目は本学部でも、専門基礎科目として教えています。
 授業では、できるだけ学生が専門とする分野との関係を意識し、かつ一般的な医療従事者として知っておかなければならないことを網羅するようにしています。例えば、神経、筋肉のはたらきをはじめ、心臓、血管、腎臓、肝臓などすべての臓器のはたらきは勿論のこと、これらの細胞レベルでのはたらきについても理解できるようにしています。特に、理学療法学科の学生は、患者のリハビリテーションと深く関わるので、神経系や筋肉系のことは、少し多めに触れるようにしていますね。ただ、リハビリをする前段として、疾患が糖尿病やガンを患っていることも多いので、そういった基礎疾患についても学んでおかなければ、深い意味での医療の理解につながらないだろうと思います。ですから、役立つかどうかは置いておいて、幅広い知識を身につけてもらうといった姿勢で講義を進めています。

■高校で生物を選択しなかった学生もいると思いますが、何か工夫などされていますか?

 高校で学んだ生物の基礎知識の上に、より高度の専門知識を積み重ねていくことが大切です。ですから、高校で生物を学んでいない学生でも分かるように、最初は基礎から始めて、少しずつレベルを上げていくようにしています。また、高校生物の教科書には、必要なエッセンスがすべて書かれているので、教科書を持っている学生には、講義に持ってくるように伝えています。
 4年後の国家試験を受けるときは、かなり難しい問題を解かなければならないので、基礎からしっかり積み重ねていくしかないですよね。ですから、その土台作りでつまずかないように、気をつけています。

■では、先生のご研究についてお聞かせください。

 今の高校生は「生物基礎」で習っている人もいると思いますが、細胞が生きていくには外界から栄養を取り込まなければなりません。その細胞が外のものを中に取り込むことを“エンドサイトーシス”と言います。ちなみに、エンドサイトーシスは栄養だけでなく、免疫細胞が病原体を取り込む際にも起こります。また、このしくみは細胞膜にあるタンパク質や、細胞膜そのものを取り込むはたらきもあります。古くなった細胞膜のタンパク質や細胞膜は、エンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれると、分解されて、新しいタンパク質を合成するための材料となります。このようにして、細胞は新陳代謝を活発に行っており、エンドサイトーシスは細胞の生存にはなくてならないものなのです。
 一方、エンドサイトーシスのはたらきに異常が生じると、細胞のがん化を促進する場合もあります。また、冬になると毎年流行するインフルエンザはウィルスがエンドサイトーシスを利用して、細胞に感染することにより起こります。このため、エンドサイトーシスの研究は病気の原因究明や治療法の開発にもつながる大切なものです。

 私は、エンドサイトーシスの基本的な仕組みや、それによって取り込まれた物質が細胞内をどう運ばれていくのかを明らかにしようと研究しています。研究には、小さな単細胞でありながら、私たちと同じ真核生物である「出芽酵母」を人間の細胞のモデルとして用いています。「出芽酵母」はパンやビールなどを作るときに昔から使われている微生物です。なぜ「出芽酵母」と思うかもしれませんが、酵母細胞はとても優れたモデル生物で、世界中の多くの研究者が用いています。例えば大隈良典博士によるオートファジーの発見やランディ・シェックマン博士による分泌経路の小胞輸送の発見といった数々のノーベル賞を受賞した研究は、酵母細胞を用いた研究により行われました。 私は、この出芽酵母を使って、エンドサイトーシスや細胞内輸送の蛍光顕微鏡解析に特に力を入れて研究しています。

■研究者としての目標や夢をお聞かせください。

 細胞のはたらきは複雑に絡み合っていますから、研究を進めると次々に新たな疑問が広がっていきます。それらを解決していく中で、これまで分かっていなかった現象や機能が発見できたら、研究者としてはとても幸せなことだと思います。また、最終的に自分の研究が病気の解明や医療の発展に繋がっていけば、理想的だと思います。ですが、私が取り組んでいる研究は、普遍的な生命現象を解明する基礎研究ですから、大きな意味でこの分野の積み重ねとなって、未来の医療の発展に貢献できれば良いと思っています。

■先生がこの分野に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?

 産婦人科での初期研修を経て、そのまま医師として臨床に携わるつもりでしたが、もともと研究をしてみたいという気持ちがありましたので、大学院に進学しました。産婦人科の臨床現場はとても忙しく、技術を体に叩き込み、高い精度とスピード感をもって症例をこなしていく能力を求められ、ちょっとした疑問が浮かんでも、立ち止まってじっくり考えている暇はありません。例えば、なぜこの薬や治療方法が選択されるのか、なぜこの症例では効果があるのに別のものでは効かないのか、など医学はまだ分かっていなことで山積みだと感じました。そこで一度、じっくり大学院で勉強してみようと考えたのです。
 大学院での実験は、失敗の連続で、絶対に失敗できない臨床現場とは正反対でした。試したことが上手くいかない時は、その原因を検証し、再チャレンジすることも出来ますし、別のアプローチを試すこともできます。また実験する手を止めて論文をじっくり読み、疑問を解決していく時間的余裕もありました。私には研究の方が向いていたようで、だんだん研究の道にのめり込んでいきました。
 大学院に入った当初は、血管内皮細胞に女性ホルモンをかけ、その反応を見る実験をしていましたが、博士課程の後半ではより分子・遺伝レベルの研究を学び、更に研究の奥深さを知りました。その頃は、定期的に病院での臨床活動をさせて頂いていたのですが、一流の研究をするためには、このままでは太刀打ち出来ないと感じ、大学に残って研究に専念する決意を固めました。出芽酵母細胞と出合ったのは、留学先のアメリカの大学(カリフォルニア大学バークレー校)の研究室でした。酵母細胞は一つの遺伝子をつぶしたり、変異体を入れたりということが、簡単にできます。また構造が単純ですので、結果もわかりやすいのが利点です。この細胞を使えば、色々な疑問が解決できるのでは、と思いました。出芽酵母細胞を用いた研究テーマに出会えたことが、ここまで研究を続けてこられた大きな要因だと思います。

■最後に受験生・高校生へのメッセージをお願いします。

 受験生・高校生のみなさんは、今、たくさんの教科を勉強しなければいけない時期ですよね。勉強している途中で「なぜこうなるのだろう?」と疑問がわいても、横に置いて、とにかく点数を上げるための勉強をしている人が多いのではと思います。それは受験という超えなければならないハードルのためですから、仕方ないと思います。ですが、一生懸命考えている時ほど、多くの疑問や発見が生まれる大きなチャンスだと思うのです。ですから、その時自分の中に生じた疑問を忘れずに、頭の隅に残して置いて欲しいのです。
 大学に入ればゆっくり、じっくり、深い勉強ができます。あの時浮かんだ疑問を追究することもできます。ぜひ、そういう学びを大学でしてほしいと思います。というのも、その「なぜ?」が研究の始まりだからです。生理学の教科書は分厚いですが、実はまだ解っていないことも沢山ありますし、教科書にはこう書かれているけれど、最近は異なる結論に至っているということが、数多くあります。今、教わったことがすべて正しいとは限らないのです。それは様々な分野でいえることだと思います。ですから、「なぜ?」という素朴な疑問をどうか大事にして、それを学びに繋げて欲しいと思います。

・次回は1月11日に配信予定です